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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その25)

2023/12/04

(前回の続き)

本テーマでの税務コラムを締め括るに当たり、刑事事件としての「法人税等及び消費税法等違反被告事件」及びそれに係る行政処分としての「更正処分」、それに対する不服申立ないしその取消を求める「審査請求事案の裁決(判断)」の明白な誤りについての請求人による指摘、そして当該審査請求事案を審理した審判所の指示と思われる原処分庁の請求人に対する「更正の請求の慫慂」、及びその前言(原処分庁審理担当M氏との打ち合わせ事項)を翻しての「更正をすべきと認められない旨の通知処分」並びにその取消を求める「本件審査請求事案の裁決」等のそれぞれに遡って、今一度、検証したいと思います。先ずは、本テーマと同根で一連の法人税等及び消費税法等の諸問題の基(もとい)となった刑事事件としての「法人税等及び消費税法等違反被告事件」について見ることとします。

 

札幌国税局査察部(以下、「査察部」という。)による国税犯則取締法(現在は国税通則法に編入)違反の嫌疑による告発を受けて、国税局から札幌地方検察庁(以下、「札幌地検」という。)へと捜査が受け継がれ、平成29年の年明け早々からは、連日、被疑者として当時の代表取締役A氏及びその妻であり当時の専務取締役であるC氏の両氏は、札幌地検において厳しい取り調べを受けていました。その具体的内容は日々「取調べメモ」に記してもらい、何を訊かれ、それにどう答えたかを複写した書面を代理人(筆者)に提出してもらっていました。代理人には、取調べに当たっている検事(検察官)の尋問の方向性が強引に有罪に向けてのもののように(逋脱の認識(故意)を認めたかのような内容の調書に仕立て上げられてしまうように)思われたことから、担当検事宛に以下の代理人の意見書を提出しています。

 

「札幌地方検察庁                      平成29年2月9日

検事NM  殿

意 見 書

                             A氏ら税務代理人GK

 

はじめに

この度、納税者及び納税義務者T社代表取締役であるA氏及び同社専務取締役であるC氏からT社の税理士法第2条第1項第1号に規定する税務代理及び査察調査に伴う一連の業務の委任を受け、同社の税務調査及び査察調査並びにこれに基づく法人税法違反嫌疑及び消費税法違反嫌疑での刑事告発(以下、「本件告発」という。)に至るまでの実情調査及び事実関係を詳細に聴取したことに基づき、以下に小職のこれまでの実務における経験及び租税法学者としての見地から意見を申し述べさせて頂きますので、何卒、ご一読くださいますようよろしくお願い申し上げます。

 

1.本件告発に係る嫌疑について 

 1-1 逋脱犯(脱税犯)の構成要件

納税義務者らから聴取したところによれば、本件告発に係る嫌疑は、納税義務者らが租税及び会計の専門家としての元顧問税理士TT氏及びTI氏の指導の下になした一連の申告・納付行為に偽りその他の不正があるとする、いわゆる逋脱犯にあるものと思われる。そうであれば、ここで逋脱犯の構成要件について述べてみたい。逋脱犯の構成要件は、納税義務者又は徴収義務者が、偽りその他の不正な行為により、租税を免れ、またはその還付を受けたこととされ、偽りその他不正の行為は、判例によれば、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行うことをいう」ものとされている(最大判昭和42.11.8)。

 

すなわち、上記判例においては、逋脱犯(脱税犯)は故意犯であるところから、その犯罪が成立するには故意が必要であることを示している。この故意の内容については、学説、判例共に逋脱犯の構成要件に該当する以下の3つの全ての事実の認識を要するとするのが有力である。

① 納税義務の存在の認識

② 偽りその他不正の行為の認識

③ 逋脱の結果についての認識

 

1-2 納税義務者らの認識

(1)納税義務者らと顧問税理士との関係

納税義務者らは、T社設立時より建設業及び関連事業における受注高(売上高)において自社の存在する区域内随一、それを達成すると次には市内随一、さらには道内一の規模の売上高を目指して、昼夜を問わず努力をしてきたものである。その間、一貫して代表取締役であるA氏は中小から大手のゼネコンに至るまでの建設会社への営業・受注活動に専念し、また、専務取締役であるC氏は夫たるA氏が受注してきた工事等に係る営業事務全般及びそれに伴う事業遂行のため、さらには事業存続のための財務管理及び作業員の配置を含む、人事・労務管理及び家事全般を担当してきた。

 

T社の税務、会計については非常に重要であることを認識し、関心はあるものの、その業務までも自らの管理下に置くことは一人の人間としての能力を遥かに超え、不可能であったところから、信頼できる税務、会計の専門家としてのT会計事務所(以下、「T会計」という。)のTI税理士にそれらの業務を委任してきた。したがって、T会計には全幅の信頼を寄せ、父親のTT税理士、同人亡き後は、その子であるTI税理士のアドバイスや提案を何らの疑いを挟むことなく、唯々諾々と受け容れていたことが窺われる。一般に、顧問税理士(ここでは便宜上、「関与税理士」と同義に扱っている。)と顧問先(同、関与先)企業とは、信頼関係をよりどころに成立する関係であるところから、その密度の濃淡はあるものの、いずれの会計事務所ともその顧問先との関係は、概ね上記と同様の状況にあるものと思われる。

 

このような状況から、C氏は、会社の経理全般についての最終的な責任の所在は自らにあることは認識し、T会計で作成した書類には目を通してはいたものの、その内容の精査・確認及び理解となると、当該書類作成者の説明が不十分であったこと及び本人の知識が不足していたこともあり、十分ではなかったことは容易に窺われる。他方で、仮に善良な管理者の注意をもってその職務に当たっていたとしても、後述の複雑な会計処理が求められる方式を知悉し、また、その処理の誤りに気付くことは、特に秀でた専門家は格別、一企業の担当者のレベルでは困難であると評価されるところである。

 

(2)会計方式の問題点

税務顧問契約を締結していたT会計が採用していた、「期中現金主義」は、主として小規模で現金取引が主体である事業者に採用される会計方式であり、期中の諸取引を「売掛金勘定」、「買掛金勘定」、「未払金勘定」を使わずに、入金時に「売上」を立て、また、支払時に「仕入高」や「経費」を計上する会計処理方法である。このことは、当該会計方式を用いて作成された「月次損益計算書」を用いてそのまま中堅以上の規模の会社の財務分析や経営判断に利用することは、タイムリーさという観点で発生主義に大きく劣り、かなりのリスクがあると考えられる。また、この会計方式は、期末に売掛金勘定や買掛金勘定の残高について「棚卸洗替え」を行い、期末決算時には、前期末の売掛金を戻し入れ、当期末の売掛金残高を計上することになる。

 

このため、現在のT社のような売上高を維持する企業の会計方式としては、適切性を著しく欠き、専門家でも混乱するケースが多く、結果として今回のようなミスを犯す蓋然性が大であると評価される。これを物語る一例として、C氏のメモによれば、決算の打ち合わせと称して、TI税理士が平成27年4月28日にT社を訪れた際、「社長(A氏)、今回の決算の利益は○○億です。どうしますか?(利益を)いくら位にしますか?(税については)今期で払うか、来期で払うかの違いです。お金が消えていないからいいんです。どの会社(T社でもその関連会社でも)で払っても同じですから。税務調査が入らなければいいです。」と述べている。この後、同メモによれば、TI税理士は、「売掛金(を)減らすの(は)どれにしますか?」、「外注費(を)増やしますか?」、「役員の退職金を払う人(は)いませんか?」、「決算賞与(を)出しますか?」、「役員賞与はダメです」、「株主配当もダメです。」と納税義務者らにアドバイスしたり、同意を求めたりしている。

 

これらの事実は、決算を主導していたのは、T社の顧問税理士であるTI税理士であることを強く推定できるところである。なお、上記メモの事実を推認させる「録音データ」が存在し、その中で、社長であるA氏から1億円の処理(計上ミス)についてTI税理士が質問を受けている場面でも、同人は混乱、取り乱してしどろもどろの状態である。さらには、査察調査があった翌日の平成271126日、TI税理士がT社を訪問し、「社長、決算の時、社長に頼まれてやったって言っていいですか…?」、「国税局が怖いので、資格を剥奪されます」と懇願している事実が、同メモより確認されているところでもある。この他にも、期中現金主義の会計方式には問題点が存在するが、ここでは割愛する。いずれにせよ、専門家ですら、「録音データ」の内容でも確認できるように、混乱してしまう会計方式ないしはその処理を、税務・会計の知識を十分に備えていないC氏に、それらを知悉しているとの前提で、悪意で税を免れたであろうとの推論は、甚だ適切性を欠き、事実を曲げ、事実から目を背けることになるものと思われるところである。」(つづく)

  文責(G.K


 

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