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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その26)

2023/12/15

(前回の続き)

「(3)逋脱犯の構成要件に該当する事実の認識

認識の問題につき、先ず、前記1-1の①の納税義務の存在の認識について述べてみたい。これについては、「所得があり、その所得にかかる納税義務が発生するという事実を納税義務者が認識していることが必要」である。これを、納税義務者らの認識により行ってきた行為に当て嵌めると、納税義務者らは、普段から、顧問税理士であるTI氏に対して、正しい計算による正しい処理によって、誤りのない税額を算出することを依頼しており、そこから得られた正確と思われる税額を国に納付していたのであるから、納税義務が発生するという事実を認識していたというより、むしろ、それを納付することによって納税義務が消滅したことの方を強く実感、認識していたことが窺われる。

 

次に②の偽りその他不正の行為の認識について述べれば、これは、「自己の行為が偽りその他不正の行為であることを認識していることが必要である」とされる。これを納税義務者らの認識及びそれに基づきこれまで行ってきた行為に当て嵌めれば、上述した内容に加え、T会計との税務顧問契約締結後、同事務所に節税の範囲を超えて脱税を依頼、指示していた事実は一度もなく、納税義務者らからの事情聴取及び資料等からも偽りその他不正の行為の認識について、一切確認されていない。

 

3つ目は、上記③の逋脱の結果についての認識であるが、これについては、「所得が存在するにも拘わらず、これに対する正当な税額の全部又は一部の『税を免れ』る結果となることを認識していることが必要である」とされるものである。これにつき、学説・判例は、その項目や科目についての個別的な認識(個別的認識説)までは必要とせず、おおよその所得についての概括的な認識があれば足りる(概括的認識説)としている。この認識についても、納税義務者らがこれまでなしてきた行為なり行動に照らせば、上述しているように、納税義務者らは、日頃から、顧問税理士に対して、正しい計算による正しい処理によって、誤りのない税額を算出することを求めており、それは、「所得が存在するにも拘わらず、これに対する正当な税額の全部又は一部の『税を免れ』る結果となることを認識している」こととは論理矛盾し、そのように評価することは到底できないところである。

 

1-3 過年度の税務調査における所轄税務署の回答と信義則

政府方針として、平成29年度には、社会保険加入義務のある建設業許可業者の加入率を100%とするに当たり、国は平成24年7月から、経審(経営事項審査)の厳格化、2411月より順次未加入企業に対し、建設業法に基づく諸官庁の立入り検査、建設業許可・更新時に保険加入の指導を行ってきていた。これを受け、大手ゼネコンも下請け企業に対し、社会保険加入状況を確認し、未加入企業は使わないとする動きが見られ、一方で下請企業からは元請企業に対し、従来の総額単価だけではなく、その中に含まれる法定福利費を内訳として見積書に明示して提出する、社会保険未加入問題への対策が進められている。

 

しかし、平成23年当時の調査によれば、鉄筋工事業を含めた建設業界は、社会保険の加入状況が他の業界に比べ著しく低い状況となっており、特に二次下請以降の加入率は5割を切っていたとされている。その背景として、鉄筋工事業界では激しい受注競争による受注額の低減化により、粗利は概ね20%程度であり、そのうちから社会保険等の法定福利費としての支払賃金の約16%を事業主が負担することになれば、手元に残るのは5%未満となり、殆どの企業が立ち行かなくなる実態があったことが挙げられる。そうだからと言って、従業者を無保険の状態にするわけにもいかないところから、当時のT会計の税理士TT氏の指導で、企業の生き残りをかけ、一人親方として「建設国保」に加入するよう促していたことが窺われる。

 

このことから、定期的(概ね2年)で、加入資格要件を満たしているか否かの厳格な確認調査があるため、これを回避するために、設立した会社を2年で閉鎖することを繰り返していたと納税義務者らは述べているのは信頼に値する。仮に、これを消費税の免脱目的と判断・認定するには、法律の定めを必要とする。当時の顧問税理士のTT氏が「違法ではないから」と、何度も言っていたのは、おそらくこの点の「法の不備」を理解していたのであろう。また、C氏のメモによれば、平成24年のT社の、札幌南税務署の税務調査を受けた際、質問検査権が行使されている当該調査の冒頭部分で、同社の関連会社について調査官に質問され、「社会保険の都合上、別会社が必要であることを述べたところ、その内容について理解が得られ、(当該関連会社の業務を)続けるしかないでしょう」との回答が得られている。

 

すなわち、そのような関連会社のあり方で「問題なし」とする回答を得ている事実が存在する。なお、これに関しては、平成27年9月17日の税務調査においては、C氏が(前回調査時の回答を)確認して欲しい旨を申し出たところ、札幌南税務署調査官のO氏は「前回の記録はない」と回答している。民法第1条第2項は、基本原則として、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」と規定する。この原則は、正義の要請に基づく法の一般原理であり、当然に租税法の分野にも適用されるべきものである。この原則が租税法分野に適用される場合、納税者利益と社会的利益とを十分に比較衡量し、納税者利益を保護すべき特別の事情がある場合は、積極的に適用されるべきものと考えられている。

 

税務調査において、調査官が「問題なし」と判断、是認回答したものを後になって、前言を翻し、「前回の記録がない」として覆すことが許容され、容認されるとすれば、納税者は何を信じればよいのであろうか?税務調査における調査官の判断、これこそは、税務当局の公式見解そのものである。仮に、この信頼が保護されないとしたら、納税者、否、国民は国家を信頼できないと考えるであろう。保護すべき法益を熟考すべきである。また、一読困難、二読混乱、三読理解不能と言われ、1,500時間以上の勉強時間を経てさえ、税理士試験に合格するのは10%前後の、複雑で難解な消費税法につき、C氏が、「簡単だから知っていた」、「消費税を免れるために悪意で行った」と捜査当局が断定的な判断をするのは、租税法律主義及び法の支配の原理から見ても極めて無理があるように思えるところである。

 

2.結論

以上、主として消費税の逋脱犯について述べ、「逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行うこと」とする逋脱犯の構成要件を、事実に照らして個々に検討してきたが、そのいずれの要件も満たしているとは言い難い。また、その他の聞き取りした情報、資料等を渉猟した結果、それらのいずれについても、逋脱の意図を明示するものは確認されていない。租税法の分野では、法の一般原理である「信義則」に優先して「合法性の原則」が主張されることが多い。しかし、租税法には、二大原則とされる「租税法律主義」並びに「租税公平主義」が存在し、「合法性の原則」はこのうちの租税公平主義から派生した思想とも考えられ、当該原則を、一般権力関係にみだりに持ち込むべきではない。

 

特に、税務調査において、調査官が是認回答したものを後になって、前言を翻す場合の「免罪符」とするようなことがあってはならない。また、同様に調査官が是認回答したものを「記録がない」ないし「滅失した」とするのは、逆の立場に置き換えれば、「仮装・隠蔽」としての重加算税の賦課対象となる重大な要件でもある。これらを総合すれば、本件告発の納税義務者らに係る法人税法違反嫌疑及び消費税法違反嫌疑は、行政面はともかく、刑事面においては嫌疑不十分と評価されるべきものと考えられるところである。

 

おわりに

曩の札幌国税局に提出した上申書(平成281124日付)においても述べているように、納税義務者らは、「もとより租税を逋脱する意図はないものの、結果として、租税に関する専門家(TT税理士、TI税理士)の示した手法に非違があり、それによる納税者としての利益を享受したのであれば、可能な限り早期に、それに対応する租税を納付し、納税義務者らとして、また、国民としても『納税の義務』を果たすことは当然」と考えている。よって、この考え方に基づき、平成2812月2日、札幌国税局に1億1千1百万円を予納しているところである。以上、T社の税務代理人として、また租税法研究者としての小職の意見を述べさせて頂きました。ご一読の上、何卒、寛大なるご処置を賜りますよう伏してお願い申し上げる次第です。以上」

 

査察部の取調べ、それに基づく札幌地方検察庁(以下、「地検」という。)への告発及びそれを受けて脱税犯としての嫌疑を固めるべく地検の捜査のいずれもが、脱税の構成要件として必須とされる、いわゆるタマリ(脱税によって貯められた現金及び等価物)の発見等の直接証拠や自白も得られていないまま(タマリを発見すべく査察部は、A氏宅への徹底的な家宅捜索を二度行ったが、そのいずれも空振り、発見不可であった。)、また、査察部の告発を受け、捜査が地検に引き継がれ、間もなくして直接証拠も明らかにされないまま(査察部の判断、事実認定を検証することなく、そのまま受け容れたと思われる)逮捕、勾留されたことから、税務代理人としての筆者は、嫌疑不十分ではないかとして上記の意見書を提出しています。それにも拘わらず、地検は勾留を続け、結果として、370日にも及ぶ勾留期間を通じてさえも、A氏、C氏の自白は得られていません。「初めに結論ありき」の下、自白を偏重する、誤った方針(国策)により強引かつ強権的な取り調べが行われていると、当時、筆者には確信的に思われたところから、一切の証拠となるべき資料等が押収されて不在の中、限られた資料をもとに本件事件の捜査を担当していた地検主任検事宛に租税法学者(法学部教授)の視点から上記の意見書を提出したものです。(つづく)

文責(G.K

 

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