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いわゆる“理由なし通知処分”に係る裁決の批判的検証 (その27)

2023/12/28

(前回の続き)

事程左様に、その後に続く地検による起訴状記載の公訴事実、更には札幌地方裁判所(以下、「地裁」という。)における裁判の進行過程には、驚愕する(異常な)事態が待ち受けていました。先ず、直接証拠がない中、自白を迫るべく、被疑者は370日にも渡って勾留され、その期間の殆どを通じて弁護人以外の人物との接見が禁止されたこと。それも、査察部が既に数年の期間を掛けて情報を集め、証拠収集した上で地検に告発しており、捜査は既に十分尽くされ、常識的には、最早、被疑者が、証拠を隠滅する余地や可能性はないにも拘らず、勾留決定に対する数度にも及ぶ弁護人による準抗告(起訴されてからは保釈請求)に地検は反対し、地裁はこれを認めていたこと。また、被疑者には当時、健康状況に不安があり、長期の身体拘束は苛酷であったにも拘らず、それが考慮されなかったことなど勾留の相当性を欠くにも拘らず、検察官は、「罪証隠滅の惧れ」及び「逃亡の惧れ」があるなどと、これに反対し続け、地裁はそれを認めていたこと。その外、保釈に際しては、多額の保釈金を納めなければならず、それを放棄して逃亡することは考え難いにも拘らず、地検は、ステレオタイプの理由(反論)を挙げるばかりで、その実、単に強引に勾留中の被疑者から自白を得ようと画策する「人質司法」としか思われない情況があったのです。

 

ところで、地検は、公訴事実の第1として、「人件費を外注費に仮装し、もって不正の行為により消費税を免れた。」としていますが、当該公訴事実を明示する直接証拠は、全く示しておらず、査察部の告発内容を間接証拠として積み上げてはいますが、それらのどれを取っても、公訴事実に直接結び付くものは見当たりません。それどころか、公訴事実である、「人件費を外注費に仮装して消費税を免れた」との認定は、これまでにも再三触れているとおり、査察部は、合法的に設立されている二次下請会社(当局は意図的に「関係法人」と称しているが、以下では「関連会社」という。)につき、法律に基づくことなく、その計算を否認し、また、その後も存続している関連会社の計算を、これまた法的根拠なく調査対象期間(3期分)のみに限定して、一次下請会社(以下、「被告会社」という。)の計算に引き直したりしており、これは、自らが主張する脱税を正当化し、その額の増額目的としか考えられず、明らかに関係法令に抵触、違反していると評価されるところです。

 

また、当該計算に当たっては、関連会社の損失は除き、利益のみを被告会社の計算に付け替えて引き直し、その際に、当該計算の基礎としたであろう課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等の資料を被告会社のものとすることなく、そのまま関連会社に残置しているのです。その結果として、被告会社は「課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当するとし、地検もこれを認定して、消費税法30条7項を適用したのです。これは、査察部が意図的に虚偽事実を基礎として「偽りその他不正の行為=脱税」を作出した違法な脱税行為としての告発と思われ、検察はこれに積極的に加担して事実認定するなど、査察部及び検察双方の行為は、犯罪行為の一類型を構成するものと考えられるところです。

 

すなわち、検察は、査察部の当該告発を受け、直接証拠を明示しないまま、被告会社と関連会社は一体であるとの前提で、被告会社から関連会社への外注費は全額給与であるとして外注費を否認しているのです。その後、検察は、公訴事実の第1として掲げたものの被告が消費税を免れたとすることの立証に自信がなかったのか、弁論終結後約1ヶ月を経過して裁判所に「追加立証を行なうため」とする弁論再開請求をなし、裁判所は、一旦終結した弁論の再開を決定しているのです。かような弁論再開は無制限に認められているものではなく、あくまでも「適当と認めるとき」との制約があります。検察官は、公訴事実記載の逋脱税額等の金額について既に立証を尽くしており、弁論再開請求の理由は、被告会社における控除対象仕入税額についての追加立証を行なうためだけであると思われ、このような追加立証のための弁論再開は、刑事訴訟法における攻撃防御に関する訴訟手続の諸規定、適正手続(憲法31条)からしても本来認められるべきではなく、特に、本件においては、公訴事実の逋脱額の立証のためであり、それが弁論終結1ヶ月近くを経過してなされたことから、訴訟手続の遅滞を招来しかねないこともあり、許容されるべきものではなく、また、刑事裁判の公平・公正という観点からも相当ではないと思われるところです。

 

上に述べたとおり、検察は、被告会社から関連会社への外注費の全額を給与だと主張していますが、仮令、被告会社が関連会社に支払った外注費に被告会社の給与とすべきものが含まれていたとしても、それは全てではなく、かつ、関連会社は、被告会社から業務を100%受注してもおらず、関連会社独自の人件費(給与)、地代家賃、福利厚生費、車両費、現場経費、三次下請会社等への外注費、その他の経費や雑費等々の営業経費が存在するのです。それらのうち、給与を除いた経費、諸費用等は、純然たる課税仕入に該当することから、筆者は、租税法学者の視点から弁護側証人として、当該外注費について、「仮令、一体という前提であっても、それらの額についての仕入税額控除は可能である」旨を法廷で証言しています。検察官は、「消費税法30条7項を適用して外注費に対応する消費税は全額仕入税額控除することは認められない」としましたが、この主張に対し、同証人は、租税法学者の視点から同条同項の適用は以下の理由からできないとする認識を明らかにしています。

 

すなわち、「仮に同条同項の適用が考慮されるとしても、関連会社名義の帳簿及び請求書等をもって、同条同項にいう帳簿及び請求書等と読み替えるべきであると考えられる」とするものです。これに対し、弁護人から「どうして読み替えることができるのですか」と問われ、同証人は、「被告会社が関連会社への外注費とするものは、関連会社から見れば被告会社への売上であり、これを構成するもののうち、給与を除いた費用その他の経費等の請求書、領収書等は関連会社宛であること。また、それらに基づいて作成される帳簿等は全て関連会社名義であり、被告会社名義で作成されている筈もなく、被告会社に当該帳簿及び請求書等の作成、保存を求めることは、会計原理ないし原則に反し、不可能を強制することになる」と述べました。また、同証人は、「関連会社の計算を被告会社の計算に引き直すのであれば、その計算の基礎となっている(課税仕入れ等の税額の控除に係る)帳簿及び請求書等の資料も被告会社に属すると考える」のが道理に適っている旨証言しています。

 

裁判所は、この弁護側の証人尋問に際し、その直前になって「事実に関してのみの尋問を許可する」旨を宣明したこともあり、検察官は、上記の内容であっても、「異議あり!本件質問は、事実に関するものの範疇を逸脱しています!」旨の異議を連発し、弁護人による学者証人に対する質問は、上記内容が限界でした。証人は大学で租税法を講ずる研究者として、本件事件においては、わが国に消費税が導入された経緯、その導入に当たってモデルとした欧州型付加価値税と消費税との相違、導入に当たっての中小零細企業者への負担軽減の配慮・対策等々の政治的要請を背景とする制度運用と法適用との平仄の問題点等を中心として、それらと本件事案との関係で、「租税法の解釈と適用」について証言するつもりでしたが、その意味では、裁判所(国側)からの肩透かしを受けた格好となりました。因みに、当時の消費税法に缺欠がなければ、その後に消費税法が改正されることはなく、国民の多くが反対するインボイス制度を導入する必要もなかったものと考えられます。「法の不備」を納税者の責任に転嫁することには問題があると考えられるところです。

 

続いて、弁護人から「消費税法307項の適用が認められるという立場に立ったとして、そのことと刑罰法規の適用の際の逋脱額をどう計算するかという話は同じでしょうか」との質問がありました。これに対して、同証人は「消費税法30条7項は租税行政目的を達成するために定められている規定であり、帳簿及び請求書等を保存しない場合は、仕入税額控除の適用を受け得ないとする、あくまで行政上のペナルティを定めており、租税刑罰法規を謙抑的に適用して逋脱額を計算しなければならない場面とは考え方や計算方法も異なり、両者は無関係」であるとの証言をしています。

 

弁護人から同証人に対する最後の尋問は、「被告会社は、税金の予納を行い、さらに更正決定を受けた後は、これに従って納税していますが、これは脱税を認めているということですか」とするものでした。これに対し同証人は、「いいえ、行政手続面と刑事手続面を分けて考える必要があります。行政行為には公定力があり、更正決定に伴う税額を納付しなければ、その処分の取消を求めて争うことができず、また、そのまま放置すれば銀行金利を遥かに上回る延滞税が賦課され、一方、処分の取消が認められれば、還付金にも加算金が付加されることから、顧問税理士の立場としては、予納及びその後の更正決定に係る納税を勧めたものであり、決して脱税を認めたわけではありません」と証言しました。

 

弁護側の証人尋問としては、大学教授と被告会社の税務代理人(顧問税理士)を兼任する筆者が午前中に証言し、昼休みを挟んで午後からは国税OBで、かつて税務署長等、将に税務行政の中枢で指揮をとってきた経験のある税理士が証言をしています。そこで、次には、当該OB税理士の証言を取り挙げてみたいと思いますが、検察側が主張している被告会社と関連会社とが一体であるとの判断の大宗をなすものは、査察部の調査及びそれに基づく地検への告発の内容にあります。そうだとすると、国税当局が、租税行政上、過去の類似の事案に対してどのように判断、処理してきたかが本件事件の法的判断にも重要な示唆を与え、大きな影響を及ぼすことになると思われます。その意味で、筆者は、当該OB税理士の証言には格別の関心をもって傍聴していました。(つづく)

文責(G.K

 

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