税務コラム
(前回の続き)
査察部の期中現金主義の会計方式に関する知識の欠如、それから派生する恣意的解釈による被告会社に対する虚構の事実関係の提示、すなわち査察部による虚偽の「売上計上漏れ」作出が強く疑われるのにも拘らず、検察は、それを精細に検証することなく受け入れ、自らもそれを事実認定し、立件していたと思われます。このことから、その実態は、極めて悪質性が高く、その内容は曖昧で虚偽風説にも似たものであり、個々の取引とその額とを特定して紐付けすることなく、単に自らに都合よく一方的にピックアップして積み上げて認定額とするものの合計と納税者(被告人ら)の申告額との差額を売上計上漏れとするなど、一方的で強権的、かつ杜撰で曖昧な手法で算出した「売上計上漏れ」額との評価をされるものとなっています。また、それらの額の算定に当たっては、既に指摘しているとおり、簿記会計の基本原理を全く無視した調査スキルの稚拙さ、未熟さが際立つもの及び故意的とも思われる多額の計算誤りから、結果として、検察は、被告会社に対し、「不正の行為により法人税を免れた」とし、本来、売上計上漏れではない約5,300万円を所得金額に含めて公訴事実として立件し、札幌地裁は、後述するとおり、これを認定しているのです。
すなわち、平成25年3月期、平成26年3月期、平成27年3月期の法人税及び同地方法人税に係る売上計上漏れについては、旧関与税理士であるI氏が変則的期中現金主義を採用し、売掛金の入金及び相殺により総勘定元帳の売掛金残高が不足しそうになると、随時、期中でその額を増額修正して計上(受注工事の一部設計変更等に伴って金額が変更になったものの修正計上、期ズレ分の前倒し計上、誤って相殺を重複計上していたものの是正等)を行って売掛金残高を整合させていたこととも相俟って、一見して極めて判読し難い情況にはありました。しかしながら、このような会計処理は常態化していたとは言え、その論理的、会計的及び複式簿記における貸借一致の原理からの帰結としては、売掛金が存在する以上、それに対応する額の(相手勘定としての)売上も必然的に存在していなければならず、売上計上漏れはあり得ません。
つまり、売掛金のみを増額計上し、それに対応する売上が増額計上されていなければ、借方と貸方とがバランスせず、売掛金の増額計上分の中に必ず売上計上漏れ分とされている額が含まれているのが初歩的簿記原理なのです(2022/08/06掲載税務コラムその8参照)。このことから、一部に期ズレは認識されるものの、被告人らが偽りその他不正の行為としての「売上計上漏れ」を故意に行ったという証拠は確認できず、売上を除外して税額を不当に減少させようとしたこと若しくはしたことはないと評価されるのです。また、多額の計算誤りについては、本裁判終結後、査察部が、平成27年3月期の所得金額を計算するに当たって、平成28年3月期への繰り延べ分53,051,006円(3月売掛金不足分49,465,263円及びK社分3,585,743円)を含めて計算していることが代理人の指摘で明らかとなり(札幌南税務署への更正の請求資料4参照。)、札幌南税務署(査察部)は、平成28年3月期の所得金額を53,051,006円減額し、地方税を含めて約2,400万円を還付しています。
因みに、被告会社がどんな会計手法を採用していようとも、また、ゼネコン等の元請事業者による工事中途での設計の一部変更、再変更や追加工事等があったとしても、それらを含め、元請事業者は、実際の工事発注額(契約額)に基づいてのみ支払いを履行することから、決して当該工事発注額を超えて、あるいは不足して被告会社の口座に振り込みをすることはありません。このことは、最終的には、被告会社作成の請求書と元請事業者からの入金(振込)額とを突合することによって正確な売上額を把握できることを意味しています。これを行わずして、租税行政庁の曖昧な内容の告発の大部分をそのまま受け入れ、公訴事実としている検察もまた、誤った統治者(お上)意識の下、納税者(被告人ら)の悪質性を強調ないし誇張し、「初めに結論ありき」の方針に加担(事実認定)したところに本件事件における「売上計上漏れ」、「利益調整」その他の事実の作出、証拠捏造の問題が、その綻びとして出来したものと判断されるところです。
重複しますが、売上除外としての売上計上漏れが存在するのであれば、被告会社の元請事業者に対する請求書及びその入金額とを突合すればそこに乖離が生じており、また、簿外取引等があったとすれば、それに対応する現金、預金、有価証券その他の現金等価物等が秘匿され存在している筈ですが、査察部の二度に渡る関係個所への入念なガサ入れ(家宅捜索)にも拘らず、それらは発見されていません。これらの、納税者(被告人ら)に対する強制的な家宅捜索にも拘らず、現金等価物等は何一つとして発見されてはいない情況にあってすら、査察部は直接証拠を示すことなく逋脱事件として検察庁に告発し、作出した事実関係を更に誇張し悪質性を強調しているところに、当初の「見立て」違いがあり、租税行政庁としての面子から引くに引けない本件事件の特質があったように思われます。検察は、査察部の調査手法、調査技術の未熟さ及び判断の誤り、簿記会計に関する知識不足、更には偽計を弄して「売上計上漏れ」としていた事実並びに自らはそれらの殆どをそのまま公訴事実として立件し、札幌地裁は、これに基づく判決をしていたことを重く受け止め、謙虚に反省すべきと思われます。
次に、②の「期ズレ」についてですが、これは意図的に売上を除外する逋脱(脱税)行為としての「売上除外」とは異なる類型です。一般的には、事業年度を跨いで取引が行われたときや代金の前払いが生じたタイミングなどで、その計上ミスによって起こり得ます。ところが、本件においては、既に述べたように、当時の旧関与税理士が年間売上高16億円を超える関与先会社の会計処理に、「期中現金主義」を採用していたため、3月決算5月申告の被告会社の決算準備を4月28日に行なって初めて2億円もの利益が出ていることを認識しています。この事態に狼狽、困惑した旧関与税理士は、被告会社の代表取締役であるA氏に対して、「社長、今回の決算の利益はどうしますか?税金を今期で払うか来期で払うかの違いです。税務調査が入らねばいいです、お金が消えていないからいいんです。」と意図的な期ズレ処理を行うことを示唆、提案し、結果として、当該期の所得額を約1億円で申告するなど、決算時の洗い替え処理等の失念、見落としによる旧関与税理士I氏のミスが当該期における多額の期ズレを発生させた要因の一つとなっています。
本件見落とし等のミスを原因とする期ズレのみならず、そもそも、期ズレについてのI税理士の認識ないし会計哲学は、「売掛金の前倒しは翌期の売上が今期に計上され、翌期はその分売上が減るので長い目で見れば同じだと思っていました」(平成28年5月18日札幌国税局職員によるI税理士に対する質問応答記録書より)とするもので、そこに自らの事実誤認、誤処理による過少申告をした(させた)ことに対する違法性の結果責任についての意識、思慮は毛頭ありません。本件における期ズレは、I税理士の事実誤認(期ズレは許されるとする)からくる売上の繰り延べであり、典型的な意味(狭義)での脱税ではなく、関与税理士としての「勘違い」レベルの処理ミスです。したがって、そこに故意はなく、「勘違い」による平成28年3月期への繰り延べ処理であり、当該行為は「相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等」に該当するものではないことは明らかです。
次に、③その他に分類されるもので、法人税の逋脱と認定されているものに、関連会社の「協力金」があります。査察部及び検察が、いわゆる「裏金」であるとし、架空給与と認定しているもので、その実態は「協力金」という名の「販売促進費」の性格を有する元請事業者の現場担当者に対する被告会社の当時の代表取締役A氏の個人的で一時的な出捐金(貸付金)です。一般に建設現場の運営慣行として、公式、非公式の協力金(≒一時的な貸付金)の要請は付き物であり、下請事業者はこれを無視してその後の取引の継続はあり得ないのが実情です。この出捐金は、A氏個人の資産の中から手渡しで貸し出し、その返済分(返済額)が被告会社の請求額と一緒に振り込まれるところから、その処理について旧関与税理士I氏に相談した結果、I氏は、当該出捐金分を被告会社の現場責任者等の給与に上乗せ支給し、源泉徴収した上でA氏に返還する処理を指導していました。
したがって、仮令、被告会社と関連会社が同一と看做されることがあったとしても、被告会社には、実質上、何らの損害を与えるものではなく、本件逋脱事件の対象となるものではありません。それを、査察部は、被告会社と関連会社とを無理矢理に関係付けた上、本件逋脱事件の対象として検察庁に告発しているのです。因みに、当初、当該出捐金は関連会社の架空給与手当の支給であるとし、当該架空給与の支給と認定された3,500万円は、関連会社から当時の被告会社代表取締役のA氏に対するみなし給与の支給と認定されるおそれがあるとの誤った判断の下、査察第3部門のYM総括主査及びAK職員らは速やかに当該関連会社へ返還をするよう行政指導を行い、これを受けて、A氏は関連会社に3,500万円を返還しています。こうして査察部は、A氏から3,500万円を関連会社宛に返還させ、本件給与手当の過大計上額の問題に不可逆的決着を図っていたのが実情です。(つづく)
文責(G.K)