税務コラム
税理士法人金山会計事務所では、毎月所内で研修を行っています。講師は各税理士の当番制です。今回は「相続時精算課税制度」をテーマとした勉強会となりました。
【相続時精算課税制度とは】
贈与者(特定贈与者といいます)は60歳以上
受贈者は20歳以上(贈与した年の1月1日時点の年齢)で贈与者の直系尊属の推定相続人(子)と孫が対象となります。
贈与する財産は現預金・土地や株式などのほか適用財産に制限はありません。
課税価格は特定贈与者ごとの金額を合計した金額で、特別控除額2500万円。
この特別控除は合計2500万円になるまで、何回でも贈与ができます。
特別控除額を超えた金額については20%の贈与税がかかります。
お子さんやお孫さんには2500万円まで贈与しても贈与税がかかりませんが、贈与者が亡くなって相続税の計算をするときに、相続財産に加算して精算します。
このときの課税価格は相続の時点の金額ではなくて、贈与した時点での金額です。
相続税には基礎控除(3000万円+600万円×相続人の数)があり相続税の最低税率は10%なので、相続時で精算すると相続財産があまり多くないときは贈与税が還付されることがあります。
【相続税精算課税のメリット】
このため「相続時精算課税」の制度を利用するのは、財産を保有している親御さんが、お子さんやお孫さんに土地や株式など将来の値上がりが想定できるものを贈与するのが良さそうです。アパートなど収益物件を贈与すると家賃収入が見込めるほか、株式の配当や金融資産からの収益などを子供や孫の世代が享受できるため、この制度は多く利用されると受贈者となる子供や孫の世代に財産の移転がされて、経済の活性化がもしかして期待できるかもしれないですね。
【将来の予測】
しかし土地や株が将来値上りするかどうか・・・ここ10年では札幌市をはじめ都市部の地価は上昇していますが、20年前や30年前はどうだったでしょうか。株式にいたっては上がったり下がったり。節税になるかどうか、将来のことは予測できません。またアパートも
修繕費や管理費がかかり、建物の価値は毎年下がります。
【小規模宅地の減額が受けられない】
相続時精算課税での贈与を受けた土地は、相続税では小規模宅地の評価の減額が受けられなくなるため贈与する土地の選択には注意しましょう。
【1年間110万円までの基礎控除が新設】
相続時精算課税では節税にならないケースや、通常よりも多く納税する場合もあったり、この制度を利用すると暦年課税贈与の110万円控除が使えなくなるため、(受贈者は暦年課税制度の110万円控除か相続時精算課税制度の2500万円控除のどちらかでしか適用を受けることができませんでした)デメリットもあり、利用される事例が多くなかったせいでしょうか。
相続時精算課税制度でも年間110万円までの基礎控除が令和6年から新設されました。
相続時精算課税制度で贈与税の申告をした後の年でも年間110万円以下の贈与については贈与税の申告と納税は不要です。かなり使いやすい制度となりました。
【受贈者が先に亡くなったらどうなるの?】
受贈者(子供・孫)が贈与者(親・祖父母)よりも先に死亡した場合は、受贈者の相続人が相続税に関する権利・義務を引き継ぎます。それにしても自分の配偶者が相続時精算課税の適用を受けて財産の贈与を受けていたかどうか・・・わからない人も多そうです。
このため東京国税局の業務センターでは、相続税の申告の案内に相続時精算課税の有無を記入して納税者に送付してくれるそうです。北海道でもそのような事務処理を行ってほしいものです。
【遺留分の侵害に注意】
なかなか使いやすくなった相続時精算課税制度ですが、相続人が複数いる場合に特定の相続人にだけ財産の贈与を行うと、将来相続が発生したときに遺留分の侵害が指摘されて、相続ならぬ争続となって子供たちが争う可能性があるかもしれません。
また「うちの子に多額の金銭を与えたら、働く意欲をなくすのでは・・?子や孫の教育上良くない」と心配する親御さんも多そうです。筆者もその一人です。しかし子供の世代が働く意欲をなくさずに、充実した人生を送れるのならばこの制度を利用するのも良いかもしれませんね。
【贈与税の申告が必要】
贈与税の申告や贈与する物件について、当事務所ではご相談を承っております。お気軽にお立ちよりください。(文責 K.T)