Mobile Navi

税務コラム

税務コラム

税務コラム

 

トップページ > 税務コラム一覧 > 禁反言の原則と大臣の国会答弁

禁反言の原則と大臣の国会答弁

2017/03/15
「法は最低限の道徳」と言われ、これには諸説がありますが、私は次のように考えています。すなわち、法律の外延には、「人は相手の合理的な期待や信頼を裏切ってはいけない、相手の言動や行動を信頼して行為決定をした者の信頼は保護されなければならない」とする大原則が存在しているとするものです。この「自分のとった言動と矛盾する態度をとることを許さない」、「相手の信頼を裏切らず、誠実に行動せよ」という原則ないし考え方を禁反言の原則(禁反言の法理ともいう。)といいます。これは、民法第1条第2項に規定する「一度言ったことやしたことに対する相手の信頼を裏切る不誠実な行為は認められない」とする、いわゆる信義誠実の原則(信義則)から派生した原理の1つです。

 

ところで、昨今の国会は、本来審議すべき内容からは少しズレたところで審議ならぬバトルが繰り返されています。テレビ報道は、全ての局が挙って、学校法人「M学園」の国有地売却問題に端を発したI大臣の答弁をめぐるもの一色です。I大臣は枢要な閣僚の一員ですが、野党議員の質問に対する前日までの答弁で、当該学園の「K夫妻から何らかの法律相談を受けたことはない」し、「裁判を行ったこともない」などと言い切り、断定的表現を繰り返し用いてきました。ところが、学園が提起した民事訴訟で、I氏が原告側代理人弁護士として出廷したことを示す大阪地裁の記録が見つかったと報道されるや、一転、自らの出廷を認めた上で、答弁を訂正し、謝罪をしました。

 

M学園の理事長を辞任する意向を表したK氏が、I氏夫妻はかつて「私の顧問弁護士であった」とさるメディアに語ったことについても、一転して、「夫が顧問弁護士契約を結んでいた」と認めました。このことは、基本的な事実関係について、事実に反する国会答弁を繰り返していたことになり、いわゆる虚偽答弁をしていたということになります。それにしても、わが耳を疑うのは、I氏の記者会見における釈明と言おうか弁解です。「私は自分の記憶に基づいて答弁をしました。従って私の記憶に基づいた答弁であって、虚偽の答弁をしたという認識はありません。」とするものです。

 

国会答弁の重みを、枢要な閣僚でありながら、I大臣は理解していないのではないかとさえ思われ、国会における閣僚としての発言がこんなに軽いものなのか、責任は厳しく問われるべきものと思われます。仮に、このような言い訳や弁解が罷り通り、都合の悪い事実を隠したり、誤魔化したりしたことが後に明らかになっても、「記憶に基づいた答弁だった」と言えばよいことになるのでしょうか。何より、I氏は国会議員であると同時に法律の専門家としての弁護士でもあるところから、虚偽答弁については国会軽視の問題をも孕み、軽くない責任が問われても当然のことかと考えています。当然、冒頭に述べたような「禁反言の原則」の示す内容については、熟知していて言わずもがなでしょうが。

 

信義誠実の大原則は、人は相手の合理的な期待を裏切ってはいけない、相手の行動を信頼して意思決定し、それに基づいて行為決定をした者の信頼は保護されなければならないとするものですが、租税実務においては時として、税務職員が一旦是認したものを、後になって否認することがあります。この場合、"税務職員が一旦是認したその信頼"をどう扱えばよいのでしょうか。いわゆる信義則は、あらゆる法律分野のあらゆる法律関係に適用される一般原則ですが、一方で、「合法性の原則」が重視される租税法の分野で、いかなる場合に、いかなる条件で、租税法に優先して納税者の信頼を保護するかの比較衡量は、難しい問題と言えます。 (了)

文責 (G・K)

 

金山会計事務所 ページの先頭へ